大室産業医事務所
代表 大室 正志氏
産業医科大学医学部医学科卒業。都内の研修病院勤務を経て、産業医科大学産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医、医療法人同友会産業保健部門を経験し、現職。専門は産業医実務。企業における健康リスク軽減にも従事する。現在日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業など約30社の産業医を担当。
株式会社LayerX
執行役員 石黒 卓弥氏
NTTドコモに新卒入社後、マーケティングのほか、営業・採用育成・人事制度を担当。また事業会社の立ち上げや新規事業開発なども手掛ける。2015年1月、60名のメルカリに入社し人事部門の立上げ、5年で1800名規模までの組織拡大を牽引。採用広報や国内外の採用をメインとし、人材育成・組織開発・アナリティクスなど幅広い人事機能を歴任。2020年5月、LayerXに参画。2020年12月、デジタル庁(仮称)設立に向けたデジタル改革関連法案検討推進委員に就任。
株式会社キャスター
CASTER BIZ recruiting事業部長 森数 美保氏
JAC Recruitmentに新卒1期生として入社し、最年少マネージャーに就任。その後、大手企業で採用人事を経験後、スタートアップでゼロからエンジニア採用を推進し、1年間で組織を2倍に拡大させた。2018年11月 株式会社キャスターに入社、翌3月に採用代行サービスCASTER BIZ recruiting事業責任者に就任。120名以上のメンバー全員がフルリモート勤務の組織を運営しながら事業開発を行っている。
社会保険労務士有資格者。
株式会社LiB
LiBzCAREER営業部長
江成 充氏
2006年インテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社。人材紹介の法人営業・キャリアアドバイザーに従事。人材紹介と求人広告のマネジメントを経て2018年11月に株式会社LiBに参画。営業部長、転職支援部長を経て再度営業部長に着任。コロナ禍で40本を超える自社・共催ウェビナーに登壇。「日本中の一人ひとりが“自分以上の自分に出会える“場づくり」を掲げる。
リモート化での変化は、見えなかったものが「炙り出されたこと」と「より見えなくなったこと」
――まず、2社で人事を務めてきた石黒さんに、2020年に起きた変化をお聞きしたいです。
石黒さん:
オフラインで会う機会が減ったことで、これまで見えていたことが炙り出されたものもあれば、より見えにくくなったものもありましたね。
より見えにくくなったことは、従業員のコンディション。例えば前職では、必ず1日1回は1フロアを歩いて社員の表情を確認するようにしていました。今ではオンラインコミュニケーションツールに代替していますが、なかなかそういった代替手段をいち早く取り入れている企業は少ないのではと感じます。
日本の言葉でよくある「顔色を伺う」ことが、リモート化でできなくなったので、常に上司の空気を意識しながら仕事をしていた人は、働く気持ちが緩くなってしまうのではないかと思います。
――キャスター様は、コロナ禍になる前からフルリモート勤務を承認されていていましたが、どのような変化がありましたか?
森数さん:
COO石倉もよく言っていますが、リモートワークにいくら慣れていてもリモートwithキッズに慣れているわけではないんですよね。子どもも休校で家にいることになり、その環境はさすがに私たちも辛かったですね。なので、そもそもリモートワークに慣れていない方、さらに子どもを見みながら働かなければならない方は、両方初めての体験で非常に苦しかったのではないかと思います。
――リモートワークとお子さんの子育てについて、独身の方やお子さんがいらっしゃらない方はイメージがない部分もあると思うので、もう少し具体的に教えていただけますか?
森数さん:
やっぱり、子どもは親が仕事中だとわかっていても、話しかけたくなるんですよね。私の場合は、小学校と全く同じ時間割表を作り、各部屋にその時間割表を大きく貼って、その時間にチャイムを鳴らすようにして工夫をしました。これ通りに生活して、一切リズムを崩さない3ヶ月を過ごしました。
リモート化では察することと、察してもらうことをやめた方が良い
――いろいろと工夫をされたんですね。大室先生にも伺いたいのですが、2020年は、2019年にはなかったような相談や労務リスクは増えましたか。
大室さん:
増えましたね。先進的な企業以外にもリモートが推進したとことが要因に思います。歴史的な話をすると、そもそも日本は、室町時代に治水技術が発達して、農村では皆同じ水を一生使うことで、定住社会が生まれたわけですよ。自分だけ無礼をすると、自分の方にだけ水を引き入れる奴だと、「我田引水」だと言われるわけです。江戸時代になると移動が禁止になり、一生同じメンバーと顔を合わせるから、強い言葉遣いをすることは好まれません。例えば、京都では、その自治を取り仕切るトップが変わっても、敵対してないことを表す婉曲表現が広まったんですよ。非常にハイコンテクストな社会ですよね。だから、イエス・ノーははっきり言わない。「体調悪そうだけど大丈夫?」と聞かれても、大丈夫ではないのに「いや、だ、だ、大丈夫です」と答えるんですよ。この「だ、だ、大丈夫です」という表現によって、大丈夫じゃないことを分かってほしいんですよね。でもこれがチャットだと、「大丈夫です」で終わりですよね。
――文字で見ると大丈夫なんだと受け止めますよね。石黒さんも言っていましたが、「顔色を伺う」ことができなくなりましたよね。
大室さん:
婉曲表現は、日本人がずっと使ってきたコミュニケーションOSみたいなものなのです。ただ例えば、ある大手外資系金融会社みたいに、会社に属した瞬間にイエス・ノーをはっきり伝えることを憲法のようにする会社であれば良いですが、必ずしもそういう文化の会社ばかりではないですから。リモートのまま新しい部署に異動して、上司の人となりが分からないままにチャットで「これどうなっていますか」と聞いたら、「怒ってる?」みたいに返答が来ることもあると聞いています。単なる質問でも意図を読んでしまうこともあり、ハイコンテクストをしてきた文化だと文字にすると意味が変わるのが難しいですから、この辺りをどうするかです。
森数さん:
当社では、入社後のオリエンテーションで「察してもらうこと」と「察すること」は、今日以降あきらめて捨ててくださいと、必ず伝えています。
――「察すること」と「察してもらうこと」を捨ててねというメッセージは、いつぐらいから、どんな文脈でお伝えされはじめましたか?
森数さん:
リモートワーク に特別な力は必要ないと思いつつも、一定環境が合わずにやめていくメンバーがいました。理由をヒアリングすると原因がみえてきたんです。結果、最初にこの2つを伝えて組織運営でも徹底することで、不幸な離脱が減ることがわかり、この1年半くらいは伝え続い得ていますね。
察してほしい気持ち、察してあげたい気持ちが出る理由は、「こんなことを言ったらどう思われるんだろう」「こんなこと言ったら自分はできないやつだと思われるんじゃないか」という気持ちなんですよね。なので、アウトプットをすればするほど、良いインプットが返ってくるという体験を繰り返ししてもらうことで、言ってもいいんだと感じてもらうようにしています。
表情が見えない時に、どうやって相手を見る?
――石黒さん、社内を歩くことで表情を確認していたと思うのですが、それがリモートできなくなったとき、代替手段としてはどんなことを実践されましたか?
石黒さん:
当社は現在、35名ほどなので日報やSlackでの発言内容や量を見ていますね。あとはDiscordを1日中ずっとつなげたりしていますね。
――信頼関係があるとZoomなどを繋ぎっぱなしでもワークしそうですが、何か監視されていると思うと逆に安心空間にならないこともあると思うのですが、いかがでしょうか?
石黒さん:
私が必ず伝えているのは、職位が高い方が先に顔を出そうと伝えています。弱みを見せられる組織は強くなるという本が流行りましたが、自己開示をしていくのは誰かがやらないと始まらないので、リーダー陣が率先して行動するようにしています。
――大室先生宛にコメントです。言わない人は謙虚とも思われるけど、言わなくても分かってほしいというより高度なコミュニケーションを求めているということも言えそうですねと。
大室さん:
一見すると謙虚に見えますが、言わなくても分かってほしいのは家族ぐらいですよね。そのレベル間の作用を分かってほしいなと感じます。日本の多くの会社は、村社会からの延長で、終身雇用でずっと一緒にいるから、他よりも所属企業を優先するような家族主義的な文化があるように思います。
――それこそ経営者で戦略発表を一度したら、もう社員は分かってくれているはずだと、ある種パッションで押し切っても、「あれ、伝わらないな?」みたいなことが起こりますよね。
大室さん:
同じような環境で育った場合は、言葉にしなくてもなんとなく気持ちがわかる場合がありますよね。例えば、似たような家庭環境で、男子校で育って、部活も会社も同じだったら、自分が嫌だと思うことは相手も嫌だよなと、自信に裏打ちされた感覚があるわけですよ。でも、違う環境で育った人が入ると、言わなくてもわかるという幻想は捨ててかないといけないということですよね。これはトレードオフです。
――最近は、カルチャーフィットした採用をしている企業が多いですが、ある種同質性に近い文脈とダイバーシティに近い文脈の両方が出てきていますよね。
大室さん:
アメリカの成り立ちがまさにそうですよね。アメリカはダイバーシティを強く推進しているので、自由と民主主義を愛するカルチャーを信じていない人は徹底排除しているんですよ。要するに、自由と民主主義を愛するカルチャーや、イデオロギーを信じる限りにおいては、年齢や性別、宗教などは問わないよという意味なんですよね。なので会社も、カルチャーを共有している限りにおいては、ほかの要因はどうでもいいと。逆にダイバーシティを推進していることは、逆に何を信じるかということですよね。
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