強いプロダクトと新しいオペレーションを武器に急成長企業している3社を迎えました。労務管理のSaaSビジネスを急拡大させている株式会社SmartHRからは代表取締役の宮田氏、医療ベンチャーである株式会社メドレーからは執行役員の加藤氏、そして急成長の勢いで上場を遂げた株式会社メルカリの石黒氏のお三方。今最も勢いのある3社に採用のことだけでなく、今のビジネスの旬や、ビジネスにおいて大切なことなどを聞いていく、HR Knowledge CAMP 第一部・前編です。
【イベント実施日】2018年7月3日(火)
【スピーカー】 株式会社SmartHR 代表取締役 CEO 宮田 昇始 氏
株式会社メドレー 執行役員 加藤 恭輔 氏
株式会社メルカリ People Partners Manager 石黒 卓弥 氏
【モデレーター】 株式会社LiB 代表取締役社長 松本洋介氏
『プロダクトの強さ×人材の強み』を各3社はどのように事業に組み込んでいるのか?
松本洋介(以下、松本):少し前まで、盛り上がっている企業は「非常に良いサービスを作ってプロダクトを伸ばす」というスタイルが主流でした。エンジニアやデザイナーが主体となってやっていたのですが、私たちが中途採用をお手伝いしている中で、現在の採用で注目されているのはコミュニケーション人材だということに気が付いたんですよ。実際、企業からくるオファーもコミュニケーション職種が増えていることは事実です。
よくあるコミュニケーション人材のポジションとしては「クライアントサクセス」や「カスタマーサポート」などといったもので、体験サポートや顧客の育成といったユーザーエクスペリエンスを強くしていくのが目立っているんですよね。
今回のお三方の企業は強いプロダクトを既にお持ちなので、プロダクトの強さを大前提とした「技術×人」といった側面で、コミュニケーション人材を活用してどうビジネスを進めているのかについてお聞きしたいです。宮田社長、いかがですか?
宮田昇始氏(以下、宮田氏):そうですね、僕は新卒時代に、営業をやっていたことがあるんですけど、そこでは「売れないものを売れる営業がすごい」みたいに言われていたんですよ。もう「何でも売ってこい!」って。でも、今はその真逆で「売れないものは売れなくていい」と思っているんです。
営業の仕事はもちろん商品を売り込んで売上をあげることですけど、それよりも大切なのは「顧客の課題が何なのかを見極めて、開発側にフィードバックできること」なんですよね。自分たちの商品が顧客の課題にそぐわなかったら、無理して売ることはないんです。
松本:結構難しいですね。従来型の営業だと説得しちゃったり、すり合わせちゃったりして売っちゃうじゃないですか。
宮田氏:そうなんですよ。でも、そもそも、うちのサービスのKPIとして重要視しているのは契約率ではなく、解約率なんですよ。SaaSビジネスでの解約率は月2%以下、継続利率だとざっくり5年程度です。
だから、合わないところには無理して売らず、たまたまうちの商品で課題が解決できそうなら進めていくし、足りない部分が出てきたら営業からのフィードバックをもとにエンジニアが変えていって、契約を継続してもらうことが重要なんです。我々が営業に行く先は、どちらかというと営業に慣れてない労務の方が多いので、ゴリゴリの営業スタイルで臨むと相手に引かれちゃって、逆に失敗することが多かったり(笑)。
おかげさまでSmartHRは今のところ解約率0.2~0.4%という嬉しい数字を保っていますが、これもカスタマーサクセスチームが地道に解約したお客様のところに訪問して、解約理由をしっかり聞いて、エンジニアチームがどんどん潰していってくれたおかげですね。
松本:プロダクトをより改善し、顧客の課題を解決してサービス利用を継続していただくために、営業・カスタマーサクセスというコミュニケーション職の人が必要不可欠ということですね。加藤さんはいかがですか?
加藤恭輔氏(以下:加藤氏):今、メドレーではカスタマーサクセスというチームがあり、事業の要になっていますね。セールスチームが契約を取ってきて、その後はカスタマーサクセスチームがお客様に伴走して進めていく、という感じです。チームメンバーも徐々に増えてきているんですよ。
弊社の持つ「CLINICS(クリニクス)」というオンライン診断サービスは、病院に行ってお医者さんに診察してもらわなくても診療を受けることができるというものなんですが、そもそも「オンライン診断って何?」というのが現状なので、市場啓蒙の部分からカスタマーサクセスのチームに活躍してもらっています。
松本:なるほど。オンライン診断は「できあがった商品を売る」というよりは「経験・体感」という部分が重要なサービスだと思うのですが、そういった体験ナビゲートをしていく上で御社ならではの工夫はありますか?
加藤氏:今まさに市場黎明期なので、こういったサービスの成功事例がそもそもないんですよね。だからこそ、全国のどこかで良い事例が出てきたら、類似するものをどんどん集めていって、同じような場所に展開していこうと思っています。
最初に始めたうちがどんどんやっていかないと、事例も経験も溜まっていかないですからね。そういったところをカスタマーサクセスチームには支えてもらっていますよ。
松本:ありがとうございます。メルカリさんはどうですかね、石黒さん。
石黒卓弥氏(以下、石黒氏):メルカリはこの7月から“カスタマーサポート”という名前を“カスタマーサービス”と変えて、より能動的に動いていけるようにしていこうと考えています。メルカリは基本的にお客様同士がやりとりをする、いわゆるCtoCなんですよね。だからルールはどんどん減らしていって、お客様同士でルールや仕組みを作っていってもらい、問題が起きてもお客様同士で解決してもらうのが理想なんです。
でも、たまにお客様同士のトラブルがうまく解決の方向にいかないことや、方向性を誤りそうなことがあったときに、そっと手を差し伸べられるのがカスタマーサポートのポジションだと思っていて。よく起きるのが送料とかの金額不足トラブルだったりするんですけど、カスタマーサポートのメンバーひとりひとりがある程度のポイントを自分で持っていて、自己裁量でそのポイントを利用して解決してあげることができるんです。いちいちマネージャーとかに決済だの判子だのもらわなくても、各メンバーが能動的に動いて不足金の補填や問題解消をしていってくれているんです。
松本:なるほど。サービスの中でも重要なカスタマーサービスだからこそ、各メンバーに裁量権を持たせてトラブル解決を自主的にやってもらうってことですね。
3社とも時代や事業に合わせてコミュニケーション職の在り方というか、どう活用していくのかを変化させていますね。やはりそういった流れを読めるから事業も上手くいくのかもしれないですね(笑)
松本:ちょっと僕が聞いてみたかったことを聞きたいんですけど、最近の若い子の起業の相談ってプロダクトありきというか、「こういうのあったら当たると思うんです!」みたいな話が多いんです。でも一方で玄人起業家の方々はプロダクトの強さよりもオペレーションの磨き込みをしていくじゃないですか。
成功している起業家の方は、さっき話していたカスタマーサービスなどのコミュニケーション職のオペレーションとかを重要視している方が多いと思うのですが……。
石黒氏:そうですね、メルカリではカスタマーサービスの拠点をどんどん増やしていますよ。まだ利用者が500~600万くらいの規模のときに仙台に拠点を開いたんです。今ではその仙台拠点もかなり大きな規模になっていますし、採用も難しくなってきたな、とアッパーサイドが見えてきた頃には福岡拠点が立ち上がる、と言った感じでどんどん拠点を設けています。
プロダクトも大切ですが、メルカリはCtoCであるからこそ良質なカスタマーサービスや対応に投資をしていって、強いユーザーエクスペリエンスを作りに行くようにしていますね。
松本:アマゾン社がプロダクトよりも物流に投資して、ハブ倉庫をたくさん設けたのと似ていますね。「わぁ!もう届いた!」みたいな「わぁ!」という経験をカスタマーに与えに行くのが強さになっていきますよね。
メドレーさんはいかがですかね、加藤さん。
加藤氏:僕らの場合は「プロダクトエクセレンス」と「オペレーションエクスレンス」という2軸を掲げています。組織的にも1つの事業につきプロダクトマネージャーと事業部長を配置するという二頭体制にしていて、プロダクトとオペレーションのバランスを取っています。
医療系のサービスだからということもありますが、プロダクトの強さだけでなく人が関わるオペレーションの部分もセットでUXを作っていくことが大切だと考えています。その両輪でバランスを取りながら事業を進めていこうという風に、組織全体で表現しています。
松本:プロダクトマネージャーと事業責任者というセットが事業のトップというのは面白いですね。社内体制にその両軸を置いている時点で、もう「何を大切にしているのか」っていうことを全て表していますね。
宮田社長、いかがですか?
宮田氏:toBのサービスを取り扱う会社の成功って、結局は「お客さんの成功」なんですよ。何か課題があって弊社のサービスを使っ
てもらっているはずなので、その課題に対して一緒に取り組んで、解決に向かって進むことが我々がやるべきことであり、カスタマーサクセスチームに頑張ってもらっている部分なんですよね。
ソーシャルゲームのようなtoCサービスは、大規模なデータがガンガン動いていくことが特徴ですが、うちみたいなtoBサービスは定量的なデータよりも定性的なデータのほうが重要なわけで。こればかりは画面の中を見ていても出てこない情報なので、実際に利用しているお客様のところに行って「どの辺が課題なんですか?」ってヒアリングして、定性的な情報からサービスの問題を解決していこうとしていますね。
松本:なるほど。ゲームなどは少し変えただけでワッと反応が返ってくる一方、採用となるとそこまで大きな反応がないからこそ、現場のリアルな答えを聞きに動いて取りに行く。確かに、toBビジネスでは重要なところですね。
松本:やはりアイディアや企画の内容だけでは差がつかない時代になったと感じますね。どこかで良いプロダクトが出ると、すぐに似たプロダクトも出てくるし、ちょっといいなと思ったマーケットにはすぐ人が攻めてきますしね。
そうしてビジネスが複雑化してきた今、各社どう事業優位性を作っていくかに苦心されているんでしょうか?組織の作り方もそうですが、人の登用とか配置とか、事業優位性を引き出すための工夫ってどういったことをされているんですかね?
石黒氏:スタートアップのシーンですごく大切なのは、「変化への許容性」だと思うんですよ。我々はよく「Go Bold」、つまり「大胆にやろう」って言っていますけど、組織に変化があったときにポジティブに受け止めるか、ネガティブに受け止めるかってだいぶ違いますよね。
当然、経営陣など組織を変える側の説明責任はありますが、メンバーそれぞれが変化に対してポジティブに受け止めることができるのかな?というところは採用選考の段階でしっかり見ていますよ。
松本:変化耐性も採用項目にあるってことですね。僕が思うに、経営者って自分が得たインスピレーションとか知識を組織や人に体験させたいって考えるんじゃないかと。だからこそ、最適な形にどの都度で組織は変化していくものだと思うんです。
その中でメルカリさんは色々な変化がありつつも世界観は一貫しているな、と感じているんですけど、どうですか?
石黒氏:他社との比較はできませんが、変化は多いほうだと思いますね。やっぱり3年半で60人が1000人になっているわけですし、採用という観点でも変化がないとは言い切れないですよね(笑)。
グループカンパニーを切り出すことによって、小さなスタートアップを作っていって、より多くの人にチャレンジしてもらえる環境を提供できるように、ということは常に考えています。組織の変化に伴う社内募集の職種名も、「内部監査」という名前と「事業コンサル」という名前、どっちが社員に刺さるメッセージ性の高い名前なのか、とか受け取り側が感じる印象の影響や効果を考えて変えていくとか。そういった社内外に対するメッセージも意識し、言葉の選び方も非常に大切にして、社員全体がもっとプロダクトに深く関わっていけるようにしていきたいと思っています。
松本:なるほど。続いて加藤さんにもお聞きしたいのですが、メドレーさんってとても採用上手というか、情報発信がすごいじゃないですか。あんなに情報発信している人事の方は、加藤さんの他には知らないってくらいすごいんですけど、その中で工夫されていることとか意識していることってどんなことですか?
加藤氏:今では「決まったことだけをやる人」は採用されない時代じゃないですか。じゃあ、そういうアグレッシブな人材を採るためには、まず自分たちがそういうことをやるべきだと思っているんです。
エージェントさんに要点と金額を伝えて「こういうことできる人ください」って言えば紹介してもらえますけど、例えば企画が好きで企画ができる転職先を探している求職者だったら、その企画がちゃんと受け入れてもらえる風土のある会社に行きたいと思うじゃないですか。メドレーとしてはそういった会社の風土や土壌の発信のためにも“王道”・“遊び”・“個人”という3つの軸を基に情報発信をしています。
松本:“王道”・“遊び”・“個人”、具体的にどんなものがあるんでしょうか?
加藤氏:今、弊社では7つのブログを同時進行していまして……。そのうち1つは『入社理由ブログ』というもので、メドレーにはどんな人がいて、なぜメドレーに来たのか、という求人のための“王道”ブログです。2~3週間に1回更新で、もう1年半くらい続いていて、40人くらいの記事が載っているんですよ。僕自身、「メドレーのメンバーって面白い!」と思って転職したクチなので、これは絶対に必要な“王道”だと思って走らせています。
それ以外だと、エンジニアが社内の人を取材するブログもありますよ。“遊び”や“個人”の情報発信は、会社のことだけじゃなくて社員の人間味を伝えたり、休みの日に内輪でやったイベントの内容を少し紹介したりしています。
メドレーを1つの人格として見たときに、その人格を伝えるには色々な角度から見せていく必要があると思ったので、“王道”だけでも“遊び”だけでもなく、“王道”・“遊び”・“個人”の3つが必要なんです。
松本:法人格に対してチャーミングな面や熱い部分を分けて出して、多面的に見せているってすごくいいですね。
加藤氏:人の印象って、ただ目で見るだけじゃないですよね?耳で聞いたり、話したり、握手をしたり、五感を使って受信できる情報が色々とあると思うんです。その五感をフル活用してメドレーのことを感じ取ってもらいたいな、と。それぞれコンセプトを持ったブログを書き分けてその多面性を発信することで、より魅力が伝わるようにしたいんです。
そして、オンライン診療という、まさにこれから市場を作っていく事業なので、メドレーのことだけでなく市場そのものの魅力について啓蒙していくことも大切だと思っています。
松本:なるほど……。様々な企業で活躍してきた加藤さんが、客観的に感じるメドレーの“強さ”って何でしょうか?
加藤氏:弊社のバリューのひとつに『凡事徹底』という言葉があるんですが、「平凡なことを非凡な水準で成し遂げよう」ということなんです。医療を取り扱うプロダクトって、すごく大変なので、みんな手を出しづらいんですよ。プロダクトのクオリティはもちろん、オペレーションもちゃんとできないといけないし、医師会や政府や法律など、各方面色々な関係を考慮しながら、あらゆることに対応していかないといけないんです。
法律改正も2年に1回くらいあるので、短期思考ではなく長期思考、しかも20~30年先を考えて課題を解決していかないといけないところがあるので。やはり最初に言った「プロダクトエクセレンス」と「オペレーションエクスレンス」という2軸がメドレーの強さだと言えますね。
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